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「日本に農村はない」。北日本の農家実習を終えてアジア学院に帰ってきたばかりのアジア学院の学生が言った。約20年前のことである。至言である。その頃すでに東北新幹線は大宮−盛岡(1982年以来。また起点も、上野、東京駅へと変った)間を走り、東北高速道路も、とびとびではあるが開通していた。いや、付近住民の頭の中では全区間開通していた。

当時でも農道の舗装はあらかた完了し、大型道路建設は農村地域でも実現性あるものとして強引にすすめられていた。今久しぶりに北日本の農村地域に行ってみると、見たこともないような立派な大型道路が森や畠を貫いて縦横に走っている。しかし、車はほとんど走っていない。大型道路が先行している。付近住民の意思も手伝って、都市化が先行しているのである。

その時点では、アジア学院の学生は栃木県から西の日本はまだ実際に見聞していない。宇都宮から北九州に至るまで幹線鉄道と道路はおおむね平坦な海岸近くを走っている。

やっかいなことに農業も他の産業も似たような立地条件を望む。水の便が良く、つまり川か海が近く、平坦で、交通の便が良い。勝つのは、組織と経済力、情報収集力に強い“他の産業”である。農業は山の斜面あるいは不便な山奥へ追いやられていく。

結果的には、宇都宮から北九州まで、鉄道や道路はほとんど海岸近くを走り、工場地帯がほとんど切れ間無く続く。せっかく新幹線に乗っても、広々とした海を眼前に見るのは稀である。

「日本に農村はない」。アジアの他の国々からきた学生は何を見て、そう言ったのか。まず、彼らの実習を引き受けてくれる農家の建物の立派さである。次に持ち物。テレビ、電話、洗濯機、自動車、トラクターその他の機材。そして食事。ご馳走攻めである。テーブルに所狭しとばかり並べられたのは、その農家で生産されたものではない。スーパーで買ったものである。おまけに、買い物の半分以上が輸入食品である。農家の食糧自給率は低下している。いや農家だけではない。日本の人々の食の嗜好が急激に変ってきた。トマト、そしてイタリア料理が大流行である。勢いトマト製品の輸入量は増え、赤色に人気が集まる。日本の人々は昔から海外から輸入したものを、特に欧米からのものを珍重する性癖がある。ある調査によると、現在の日本の食料自給率はカロリーベースで40パーセントである。

心配なのは、日本だけではない。世界中の人々の大多数が食と農から離れつつある現状である。前にも書いたように、毎週百万人が農と食を捨て、農村から都市へ流れていく。

世界の食料自給率の将来はどうなるのか?現在食料を輸出できる国は数えるほどしかない。一方経済力を急速に増しつつある中国とインド(人口の点でも世界の3分の1強を占める)が輸出可能な食料を買い占めたら、人類全体の食料事情はどうなるのであろうか。どんどん増える難民を養う食料はどうなるのか?

アジア学院では、世界の未来を真剣に考えてこれら切実な課題についても研修を続けている。そのカギともなるのがライフスタイルである。

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